はじめに 企業法務の体験から
私は、5業種6社で通算20年にわたり企業法務の仕事に携わりました。そのうち11年余りは部門長・組織長として責任のある立場で緊張感をもって業務に取り組んできました。
20年にわたる経験の中から、企業法務に携わる方のご参考になりそうなことを『企業法務―体験からのメッセージ』というタイトルで発信しています。
7回目の今回は、前回に引き続き【社内規程】について思うことをご紹介したいと思います。
前回の振り返りと今回のテーマ
前回の記事では、社内規程についての懸念を取り上げ、メンテナンス、責任部門、規程の階層などについてコメントいたしました(前回の記事はこちら)。
社内規程に関する2回目の記事である今回は、社員がどのように規程にアクセスするのか、規程が周知され浸透するためにどのような行動が必要かということについて、改善や工夫の例をご紹介します。これは自分の体験にもとづくものです。限られた情報ですが、ご参考となれば嬉しいです。
社内規程へのアクセスで重要なこと
「規程は(一部の限定公開のものを除いて)社内のイントラネット(イントラ)に掲載しており、そこにアクセスできる者であれば、いつでも、だれでも閲覧できるようにしている」ということであれば、まずは及第点だと思います。
私の体験に照らせば、一定以上の会社であれば、おおむねこのような対応になっているのではないかと推察します。
規程集においては、規程の種類、例えば、会議、経理、実務運用上の指針などカテゴリーごとに分類する場合も多いので、その通りにイントラ上に掲載されている場合もあるでしょう。その方が、アクセスが容易になるので、なお便利だと思います。
改善の余地があるとすれば、ある事柄についての社内のルールを参照しようとしたときに、目星を付けた規程をアナログ式にめくって(スクロールして)必要事項を探しているとしたら、「検索」できるようにすることです。
個別の規程(ファイル)の検索ならユーザーの工夫次第で可能だと思われますが、それだとあらかじめ目星をつけていない規程をチェックし忘れるおそれがあります。
それを防ぐためには、規程集全体を検索できる機能を設けることです。それによってユーザーが対象の規程を探しやすくなることはもちろんですが、もう一つのメリットとして、規程の改廃の際にも大きな効果を発揮します。実体験としても、大変効果的でした。
規程を担当している部門が自ら検索機能を導入することが難しければ、情報システム部門に相談すれば、各社にフィットした改善をしてくださるのではないかと思います。
規程の周知について 責任者は明らかですか
その規程は、内容を知ってほしい人にきちんと理解されていますか。そのために、新たな規程を設けたとき、または規程の内容が変更されたとき、あなたの会社ではどのように周知していますか。
多くの会社では、イントラに掲載することが多いかもしれません。ミニマムな対応として、この位は必須といえますが、大切なことは、どんなことを、どのように掲載しているかということです。
そのためには、まず、規程の周知はどの部門の責任なのかが明確でなければなりません。前の記事で「主管部門を明確にすべき」と述べましたが、一般的にはその規程の主管部門が周知についても責任を負うことが多いです。ただし、会社によっては、個別の規程の主管部門ではなく、規程全体の統括部門、例えば、法務部とか総務部が周知についての主たる責任部門であることもあります。
このあたりは、各社の考え方次第ですが、問題となるのは、「周知の責任を負うべき部門がはっきりしていない」ような場合です。もしそうであれば、早急に改善すべきです。
こんな周知をしていませんか
ある会社に勤務していたときのことです。イントラに「規程の改訂」という投稿がありました。早速内容に目を通すと、「●●規程を何月何日付で改訂する。内容は添付のとおり」と記されており、添付されたものは改訂後の規程(清書版)のみでした。
このような記事を誰が熱心に読むと思いますか。
ひょっとしたら、ほとんどの社員がスルーしてしまうかもしれませんね。
周知のためのネタはできているはず
どのような規程であれ、制定、改訂にあたっては、何を意図して、どのような決め事を、どのような人を対象としているか等について明らかにしたうえで決裁を求めるのではないでしょうか。
そうであれば、せめてその概要だけでも開示すべきだと思います。また、改訂であれば、「新旧対照表」の開示も欠かせません。そうでないと、改訂内容をよく理解していない人が、従来のルールのままだと誤解して業務を処理してしまうおそれがあるからです。
さらに重要な規程であれば、別途説明会を開いて詳しく説明することも効果的です。それが難しい場合には、イントラとか社内サイネージなどの媒体を活用して、解説の資料や動画を公開するという方法もあります。
制定・改訂の決裁を求めるときには、どのように周知する予定かを明記する、さらには、状況が許せば周知するときの原稿を添付する、などの方法も効果的だと思います。
とにかく、「規程が制定(改訂)された。しかし、誰もそれを意識していない」という状態は避けなければなりません。
ポイントは、手を変え品を変え「繰り返す」
浸透させるためには、周知内容がわかりやすく丁寧であることはもちろんですが、それだけではなく、社員の目に触れる機会を増やすこと、つまり「繰り返すこと」が大切だと考えています。
「役員会の決定事項として、上長から説明があった」「主管部門による説明会が開かれた」「イントラにもわかりやすい資料が掲載された」「社内サイネージには、1週間ほど同じ解説が流された」「社内報にも掲載された」「イーラーニングで理解度のチェックを受けた」「部門内で勉強会が開かれ、意見交換の機会があった」など、様々な手法を組み合わせて実施すれば、社員としても「随分丁寧に周知されたから、要点は理解している。これほど頻繁に話題になるということは重要なのだろう」という意識になることが期待できます。
あらゆる規程について常に最高の水準で周知することは現実的ではありませんから、その規程の重要度に応じて可能な限り多くの機会を設けて周知の徹底を図り、浸透を目指すという考え方でよろしいかと思います。
まとめ
初めて規程を制定する仕事に携わったときは、全力で規程の下書きに臨みました。そのときに上司に言われたことをまだ覚えています。「仏造って魂入れず、ということにならないように」というものでした。
このことわざは、最後の重要な要素を忘れるなという趣旨なのですが、規程に関していえば、作るだけではなく、理解され、その通りに仕事が進められることこそ大切だという意味だと理解しました。規程の内容がどれほど詳しくても、理解されなければ意味がありませんし、それ以前に、まずはそのような規程があることを知ってもらえないことには、何もしていないのと同じです。
日々様々な仕事に忙殺されている社員の皆さまには少しきつい言い方だったかもしれませんが、ユーザー側の理解を得ることの大切さを改めて意識するきっかけとなれば嬉しいです。
もし、社内規程の周知徹底についてお悩みであれば、ぜひ、お気軽にお問合せください。
初回相談は無料です。
次回予告
前回と今回は、【社内規程】についての体験をご紹介しました。コンプライアンスの徹底のために非常に重要な要素だと信じているからこそ、他の項目よりも多く掲載しています。
次回は「社内規程」についての三部作の最後の記事を掲載する予定です。
社内規程の階層を整えるとどんな効果があるのか、定期的な改廃をするための方法例などをお知らせしたいと考えています。
引き続きお楽しみいただけますと幸いです。
※前回までの投稿は、以下をご参照ください。
企業法務―体験からのメッセージ①【期待】
企業法務―体験からのメッセージ②【人】
企業法務―体験からのメッセージ③【採用】
企業法務―体験からのメッセージ④【転属】
企業法務―体験からのメッセージ⑤【コンプライアンス組織】
企業法務―体験からのメッセージ⑥【社内規程その1】
(代表 長谷川真哉)
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