企業法務―体験からのメッセージ④【転属】

企業法務―体験からのメッセージ

はじめに 企業法務の体験から

私は、5業種6社で通算20年にわたり企業法務の仕事に携わりました。そのうち11年余りは部門長・組織長として責任のある立場で緊張感をもって業務に取り組んできました。

20年にわたる経験の中から、企業法務に携わる方のご参考になりそうなことを『企業法務―体験からのメッセージ』というタイトルで発信しています。

4回目となる今回は、【転属】について述べたいと思います。

どのような人の配転を打診されたか

ここでの転属とは、「社内の他部門から法務に異動する(させる)」ことを指します。人事部門から「こんな人材がいる。法務への配転を考えているが、どうか」と実際に申し出があったことの中から3つのケースを簡単にご紹介します。

ケース1 人と関わる仕事が苦手

最初のケースは、有名大学の法学部を卒業して地方支社で営業の仕事に携わっていた方の事例でした。

人事いわく「大変優秀な社員です。事務仕事は正確で、コツコツと仕事ができることが強みです。ただ、人と関わる仕事が苦手で、他人と話し合って要望を上手くくみ取ったり、意見をすり合わせたりするようなことに強いストレスを感じるそうです。法務で契約書を見るような仕事に向きそうなので、どうですか。次の定期異動で・・・」

驚きました。もう何年も経っていますが、いまだに忘れることができない体験です。

この人事の方は、契約書審査について大きく誤解しています。契約書審査にあたっては、机上の文書を読みこむという面も確かにありますが、それよりも重要なことがあります。まさにこの候補者の方が不得手とされる「他人と話し合って要望を上手くくみ取ったり、意見をすり合わせたりするようなこと」もその一つです。
(この候補者のようなタイプの方を貶める意図は全くありません。法務を含めて活躍の場はたくさんあると考えています。ここでは、人事の法務の仕事に対する認識に驚いたことをお伝えしたかったとご理解ください。)

翻って言えば、法務部の外の方々の目には、「契約書審査は、机上の書面をじっと読む仕事」と映っているのでしょう。
そのような誤解が生じたのはどうしてなのか、自らがその遠因になっていないか、自問せざるを得ませんでした。

ケース2 自分の仕事はこれ、と決めている

次のケースは、社歴が長く、会社のある事業分野についてはとても詳しい方の実例です。日頃、「法務に大切なことは、会社のことをよく知っていること」と私が言い続けていることをどこかで聞きつけたのか、人事が配転を打診してきました。

実は、その前に似たような経歴の大ベテランが配属されたことがあります。ある分野のビジネスで長く責任者を務めてきた方でした。必ずしも法務について十分な経験があった訳ではありませんが、コミュニケーションが上手で、担当部門のニーズを受け止めたり、会社から見た難点を説明して納得してもらったりすることは非常にお上手で、何度も助けられたものです。人事はその方の法務での活躍も知っていて、そのように打診してきたのだと思っています。

二人目の候補者は、この方と共通点はあるものの、大きく異なる一面もありました。数年前に別の部門長に昇格したのですが、前の仕事を続けたいと望み、人事に働きかけてなんと実際に以前の部門に戻ってしまったのです。

自分の人生なのですから、それも一つの選択なのだと思います。ある部門のスペシャリストという存在は確かに大変重要です。

しかし、法務の業務を担うのであれば、やはり向かないと言わざるを得ません。

ゼネラルスタッフの宿命として、社内のあらゆる部門や機能を支えることを要求されますから、このように「特定の業務以外はイヤ」という主張を貫く人を限られた人員の中に加えると部門経営が上手くいかなくなるおそれがあります。

当時の自分は、そうなった場合のリカバリーを効かせることができるほどの社内での実績がなかったこともあり、「申請中の来年の新卒社員の配属を優先してもらえませんか」とお断りしました。

なお、その後無事新入社員が配属されました。

ケース3 転属をきっかけに大変身

法務への転属により、大きく成長した方もいました。この方は、複数の事務部門で経験を積んだ中堅社員でした。

英文科の出身であり、法律関連の勉強や実務の経験のない方でしたが、とても素直で、コツコツと勉強することができる方でした。何事につけ、あまり自信がなさそうな様子が、やや心配でした。

とにかく、法務に必要な知識のうちベーシックな部分を早めに身に着けて欲しいと考え、座学と実務を組み合わせた育成プランを提示し、日々サポートしました。

座学と言えば聞こえはいいですが、要はとある資格試験の通信講座に丸投げしたのです。

まずは「ビジネス実務法務検定3、2級」。これらに合格した後は「宅地建物取引士」というルートを提示しました。

受験機会ごとに合格を積み重ね、2年以内に宅地建物取引士の合格にまで至りました。

様々な資格がありますが、極端に難易度が高くなく、その時の会社の事業に照らして最もフィットするものを選択しました。

その社員への便宜は、2つ。

一つは、講座の費用と合格した時の受験料は会社が負担すること。もう一つは、わからないことがあれば、いつでも質問してよい。私の時間が空いたときに、質問に返答する、というものでした。

結局は、ご本人の頑張りが最大の勝因でした。法律にまったく馴染みがないにも関わらず、よく頑張ってくれたと思っています。

この結果は、「ご本人の自信」と「他の社員に対して、ご本人の実力を示す材料」につながりました。

それだけではありません。あるとき私は、法務の責任者という立場に関連して、別の大きなプロジェクトのメンバーの一人となり、数か月にわたり定時まではそのプロジェクトに係り切りという状態になったことがあります。法務の仕事は、他の社員が帰宅した後にできる範囲でやるしかありませんでした。

その時に何よりも頼りになったのは、その社員の活躍でした(その時点では、まだ宅地建物取引士試験を受験する前でした)。配属されたときには全く法務のことを知らなかったのに、その頃には定例的な業務(標準的な契約書の審査など)であれば、ほぼ任せきりにしても大丈夫。返答前のチェックでも指摘すべき事項はほぼなく、依頼部門に対する返答も安心して任せられるように成長していました。

法務についてのバックグラウンドがなく異動してきてもこのように活躍した実例もあるということでご紹介させていただきました。

人材獲得と育成の難しさ

私も11年余り責任者として法務部門を担った経験から、活躍してくれる社員の獲得と育成には大いに悩み試行錯誤を繰り返しました。

そのような体験が貴社のお仕事に役立てることができるのなら、これに勝る幸せはございません。

もし、貴社が、あなたが、このような点でサポートが必要であれば、ぜひ、お気軽にお問合せください。初回相談は無料です。

次回予告

今回は、【転属】についてのいくつかの体験をお話しさせていただきました。次回は、転職間もない会社でコンプライアンスについての横断組織をつくるように指示を受けた時の体験を述べたいと考えています。新参者がどのように動いたかをお知りになることで、貴社のご参考になれば嬉しいです。引き続き、お楽しみいただけますと幸いです。

※前回までの投稿は、以下をご参照ください。

企業法務―体験からのメッセージ①【期待】
企業法務―体験からのメッセージ②【人】
企業法務―体験からのメッセージ③【採用】

(代表 長谷川真哉)

Copyright © 2024 行政書士豊総合事務所 All Rights Reserved.

コメント

タイトルとURLをコピーしました