様々な企業法務の業務~当事務所のお取扱い範囲④

業務内容のご紹介

ある会社では法務の仕事、別の会社では・・

これまでの3回の記事によって、会社によって法務部門に期待する役割が異なることがお分かりいただけたと思います。

その違いは、主に業種や会社または法務部門の規模によっても生じることが多いように思いますが、トップの意向という場合もあります。この場合、トップの交代に伴って求められることも変化することがあります。

さて、今回も当事務所がどのようなサービスを提供できるかのご理解の一助として、私の体験とスキルをお知らせします。

これまで同様、経営法友会が発表している「会社法務部 [第12次] 実態調査の分析報告(以下、第12次報告といいます)」を引用して、それとの対比の形でお伝えいたします。

法務部門が主管・関与しない業務

今回は、これまでにご紹介したA~C判定業務とは打って変わって、「法務部門が「非関与」または「事務がない」と回答した企業が多かった事務」についての経験をお知らせします。

このような業務は「X判定」とされ、「今回調査(2020年)では14事務であった(図表V-5)。」とされています。

要するに、「各社法務部門として対応していることが少ない事務」です。

PDF【表V-5 X判定業務】 

「X判定に該当する関与していないという事務のカテゴリーとしては、労働問題、コーポレート、情報管理、資本政策、M&A・企業再編等、株式・総会、国内契約、その他に関するものがみられる。具体的には、安全衛生・労働組合対応・労働協約などの労務、常務会・監査役会・稟議などのコーポレート事務、サイバー攻撃対応、資金調達・政策投資株式に関する事務、保険、社会貢献、従業員持株会、契約書の原本作成・調印に関する事務については、関与しない企業が多く、業務のカテゴリーとしても広がりがみられる。」とされています。つまり、他部門が対応し完結する業務が挙げられる結果となったようです。

「X判定業務」の経験

法務が対応することが少ないと言われるだけあって、リストアップされた業務の中で私が直接、または私の属する部門の他の担当者が携わったものは多くはありませんが、しかしながら、まったくない訳ではありません。

X判定業務に携わっていた場合には、主として“以前からずっと法務が関与していた”ということが多く、元をたどれば冒頭に挙げたように業種・規模・トップの意向等の事情が多かったのではないかと考えています。

X判定とされた業務のうち、自分が20年にわたる企業法務の経験の中で直接関与した業務は次の2つです。

・「順位14 / 7 コーポレート関係 / 44 稟議・決裁の管理」

・「順位13 / 1 契約関係(国内) / 5 契約書の原本作成・調印(押印・サインの立会)」

「44 稟議・決裁の管理」については、ある会社では部門長としてその管理責任者を務めました。稟議・決裁の管理と一口で述べても具体的な実務として様々なパターンがあり得ます。私の場合は、稟議回付先・決裁者に挙げる直前の段階の最終確認責任を負っていました。私の段階を通れば、「法的な問題はありません」という意味でした。

この実務フローについては、その狙いはわからなくもありませんが、実務に照らせば今でも『無茶だ』と思っています。しかしながら、トップの意向だったので当時は変更することができませんでした。

稟議・決裁の申請が上がっている訳ですから、基本的には速やかに回付の適否を判断する必要があります。『手続き』の一過程だからです。対象と決裁手続きの基準が合致しているか、事前に必要な手続きがなされているか等の確認というのが一般的な実務であろうと考えます。

しかし、法的な適否をその段階で判断するとなれば話は別です。それは『手続き』ではなく、『実体の確認』といえるからです。案件によっては事前に担当部門、場合によっては社内関連部門や顧問弁護士、取引先等とも長いやりとりを経ることもあります。例えば、それなりの規模のプロジェクトの契約(中には外国語の契約書をレビューする場合もあります)であれば、検討と交渉を繰り返して半年から1年ほどの時間を要することも決して珍しくありません。

それを、見たこともない契約書を持参して「契約を締結したいので稟議申請します。すぐに通してくださいね。早く決裁者のサインが欲しいから」と言われたらどうでしょう。

この会社では、“法務には必ず早期に事前確認”と“申請段階では、法務のその案件の担当者のサイン必須。それがなければ差し戻し”という運用で乗り切りました。ちなみに、この会社は上場企業でした。

「5 契約書の原本作成・調印(押印・サインの立会)」については、少し解説が必要です。

契約書の原本の作成そのものを担ったことはありません。それはどこの会社でも契約締結を主管する部門、いわゆる契約のオーナー部門の仕事でした。

しかし、どの会社であっても、誰でも原本の作成をスムーズにできるとは限りません。

本来は、契約書が複数枚数になった場合には、原則として綴じ合わせる必要がありますが、その理由を理解していないと正しく仕上げることができません(英文契約書の製本については独自の作法があるので、ここでは国内の契約書に絞って説明します)。

そこで、多くの会社では社内向けの簡潔なマニュアルを作成し、周知し、さらに必要に応じて個別に解説指導してきました。

製本テープで張り合わせればよいというものではありません。私はさすがに、千枚通しで書面の束に穴をあけて『こより』や『タコ糸』で綴じ合わせるほどの古風な作法の経験はありませんが(ただし、そのように合綴された契約書原本を目にしたことはあります)、いわゆる『袋とじ』はよくやったものです。その仕組みと狙いを説明すれば、大抵の場合は製本と『契印』の意図と出来上がりのイメージを理解してもらえました。

どさくさに紛れて、『契印』について触れました。少し先走りましたね。これは『調印段階』のお話です。

『契約書の調印業務』については、複数の会社で管理責任者またはその代行者を務めました。

必要な回付を経て権限に応じた決裁を得ているか、契約書であれば誤記その他不適切な体裁ではないかなどを確認し、この手で実際に代表者の印を押捺します。その前提として、多くの印章(つまり、ハンコ)の現物も管理していました。重要かつ頻度の高い業務です。ある会社では前任者までの悪習の名残に悩まされたこともありました。

自分が代表者印を押捺して書面として完成すれば、次は正式な文書として社外に出る訳です。場合によっては緊急性を要する案件もありますから、その頃は常になにがしかの緊張感から解放されなかったような記憶があります。

そのほか、自分が直接手を下すことはありませんでしたが、会社によっては自部門の他の担当者が次の実務に携わっていたこともあります。

・「順位3 / 7 コーポレート関係 / 42 常務会・経営会議関係(事務局等)」

ここまで業務の幅が広がると、もはや法務というよりは会社の重要な意思決定過程の伴走者というイメージですね。

会社によっては、そのような機能を担って欲しいというのが本音だったのかもしれないなあと今では感じることもあります。

この点については実務体験の詳細は割愛しますが、そのような体験もあるという点をお知らせしておきたいと思います。

このように、世間一般の相場というか全体の傾向値とは異なる実務も会社によっては生じること、私はその一部を実際に体験してきたことをご理解いただけたかと存じます。このような体験は、実際に貴社をサポートするときに、なんらかの助けとなることがあるかもしれません。

次回の予告

次回は、法務部門が担いがちな業務でありながら、これまでに登場しなかった主なものを取り上げる予定です。株主総会、コンプライアンス、会社規則、契約書管理、知的財産権など。

貴社は、これらの分野にお悩みがあって、何かヒントやサポートが必要なのかもしれません。それでは、次回もお楽しみに。

※これまでの投稿については、以下ご参照ください。

1)第12次報告の概要とA判定業務(「法務部門が主管する企業が多い業務」―11種類の事務)
「様々な企業法務の業務~当事務所のお取扱い範囲①」

2)B判定業務(「多くの法務部門がA判定ほどではないが主管・関与することが多いと回答した業務」―7種類の事務)
「様々な企業法務の業務~当事務所のお取扱い範囲②」

3)C判定業務(「他に主管する部門があるが、法務部門が関与している事務」―18種類の事務)
「様々な企業法務の業務~当事務所のお取扱い範囲③」

【引用】

米田憲市編、経営法友会法務部門実態調査検討委員会著 『会社法務部 [第12次] 実態調査の分析報告』 p.322~327(株式会社商事法務、2022年3月1日 初版第1刷 発行)

(代表 長谷川真哉)

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