これまでに取り上げられなかった業務
前回までの記事では、法務部門が主管または関与する主な業務を一定の基準で分類したもの、またはその反対に関与しないことが多い業務をご紹介しました。
それでは、そのどちらにも該当しない業務はどうなのか、という疑問が生じます。調査対象となった130種類の業務のうち、前回までに50業務を取り上げました(うち、36業務は主管または関与する主な業務)。
今回は、残る80業務のうち、法務部門がなんらかの役割を担いがちであると私が感じている次の5分野の業務に絞って、調査結果をご紹介するとともに、当事務所が提供できるサービスについてのご理解の一助として、私の体験とスキルをお知らせします。
これまで同様、経営法友会が発表している「会社法務部 [第12次] 実態調査の分析報告(以下、第12次報告といいます)」を引用して、それとの対比の形でお伝えいたします。
(1) 株主総会(カテゴリー:6株式・総会関係)
株主総会に関しては5業務が項目化されています(詳しいことは、PDFの資料をご参照ください)。そのうち、次の3業務は主管率が30%を超えています。
・30 基本方針(スケジュール・開催場所・議事の進め方)の策定
…主管率32.8%、他部門主管であるが関与している率(関与率)29.2%
・32 招集通知・決議通知等の作成
…主管率34.4%、関与率28.7%
・34 株主総会の準備・運営(シナリオ・想定問答・事務局・議事録)
…主管率35.1%、関与率37.6%
これらの業務は、主管率と関与率の合計数値だけで言えば一部のB判定業務を凌駕しています。ただし、株主総会関連業務については、他部門が主管する率が平均で6割を超え、うち法務部門が関与していない率(非関与率)も平均して3割を超えているという特徴があります。
私はある上場企業で株主総会事務局責任者を3年間務めたことがあります。当然ながら、上述の3業務についてもかなり没頭しました。初年度はわからないことも多く優秀なメンバーの手助けでなんとかなったというのが実態でしたが、徐々に業務についての理解も深まり、3年目になると多少ともゆとりをもって全体を掌握できるようになったと感じています。
(2) コンプライアンス(カテゴリー:10)
法務部門が主管または関与する主な業務としてコンプライアンスが取り上げられなかったのはやや意外でした。
該当する5業務についての主管率(法務部門が主管している割合)は、平均して約36.9%であり、また主管率と関与率の合計の平均は70.9%ですから、これらの数値だけを見ればB判定業務に匹敵します(ただし、基準に届かない要素もあります)。
関与率だけでもかなり高いのですが、高い主管率に数字を取られたためか、C判定業務の基準(関与率50%以上)には達していません。したがって、B判定業務とC判定業務の基準のはざまに沈んでしまった感はありますが、法務部門がかなりの程度関与していることがわかります。
それらの5業務は次のとおりです。
・52 企業理念・行動指針・コンプライアンス規程関係
…主管率36.7%、関与率38.8%
・53 社内通報窓口の運営
…主管率39.4%、関与率22.6%
・54 社内研修・周知徹底関係
…主管率38.1%、関与率37.4%
・55 違反事案の調査・対応(是正・再発防止策)
…主管率32.7%、関与率47.2%
・56 コンプライアンス委員会の運営
…主管率37.5%、関与率24.1%
コンプライアンス関連業務は、私が得意とする分野の一つです。上の5業務はすべて、複数の会社において責任者等の立場で相当に広く、深く関与してきました。
例えば、コンプライアンス委員会の運営を取り上げると、複数の会社で立上げから運営責任者まで務めました。
※公認不正検査士(CFE)
これらの中で“55 違反事案の調査・対応(是正・再発防止策)”について少し補足させてください。
日本ではまだそれほど知られていないようですが、米国に本部を置く団体によって「財務取引と不正スキーム」、「法律」、「不正調査」、「不正の防止と抑止」の4つの知識領域の試験に合格し、不正対策関連の一定の業務経験を有する者が認定される「公認不正検査士(CFE)」という国際的な資格があります。
認定された後も毎年所定の継続的専門教育を受けることによって能力の維持向上を図ることを要求されます。「全世界に約90,000人の会員を有し(中略)全世界に200近い支部(local chapters)が」あるとされています。この団体は、日米においてそれぞれの国の公認会計士協会とも良好な関係を築いています。
私は2020年3月に「公認不正検査士(CFE)」の認定を受け、その資格を維持しています(2023年5月現在)。
*公認不正検査士(CFE)についての引用:一般社団法人 日本公認不正検査士協会ホームページより / https://www.acfe.jp/)
(3) 会社規則(カテゴリー:7コーポレート関係、20労務問題関係)
会社の必要な規則(規程)がほとんどない、といった会社はごく少数なのではないかと思います。むしろ、長い年月の間に適切に改訂されず古い内容のまま放置されている、規程の体系がつぎはぎで他の規程との関係が不整合である、組織の統廃合に伴い、その規程の現在の責任部門がわからなくなってしまった、などのメンテナンス不足の方が多いのではないでしょうか。
さらに、法律の制改廃に対応する規程の整備に手が回らないなどの問題を抱えている会社もあるかもしれません。
会社の規程についての調査結果は、次のようなものでした。
・7 コーポレート関係 / 43 社規・社則等の制定・改廃・示達
…主管率24.4%、関与率46.6%
・20 労働問題関係 / 108 就業規則の制定・改定
…主管率3.6%、関与率39.8%
一口に会社規則(規程)といっても、就業規則とそれ以外の規程では大きく性質を異にします。それぞれをサポートする士業が違う(大まかにいえば、前者は社会保険労務士であり、後者は行政書士)ように、会社においても就業規則は法務部門以外が主管する割合が高く、93.0%に上ります。
私も就業規則の制改訂の経験はありません。しかし、それ以外の規程については、複数の会社で規程の体系そのものを整え直し、それぞれの関連性、担当部門を明確にするとともに、その内容を更新するといった、いわば規程集の全面改訂を企画立案からその周知までの全工程を行った経験があります。
その結果は、幸いにも大変評価されました。規程のアップデートと周知は、コーポレート関係の項目であると同時に、社内におけるコンプライアンスの徹底にも通じる重要な要素と言えます。
(4) 契約書管理(カテゴリー:1 契約関係(国内))
契約書の管理も、企業の業務遂行のためには大変重要な実務です。”捺印済の契約書は営業担当者の机の中”という管理では、契約、すなわち取引先と約束した内容が必要な部門に共有されない、更新期限管理が担当者任せなど現実に様々な問題を招きかねません。
・6 契約書管理(保管・期限管理・データベース化)
…主管率35.4%、関与率23.4%
この業務は、数値だけ見ると他の業務に比べて法務部門がタッチする傾向は低いのかもしれません。
実務を担うのは必ずしも法務部門でなくともよいかもしれませんが、社内からの相談ごとや契約書のレビューなど色々な段階で契約が締結される可能性を知りうる法務部門がなんらかの形でサポートするのが望ましいように思います。
私もいくつかの会社でこのような契約書の現物管理とその内容の電子化・データベース化に取り組んだ経験があります。
成功例、失敗例と様々ありましたが、それを通じてそれぞれの会社にフィットした管理手法というものがあると実感しています。
(5) 知的財産権(カテゴリー:17 知的財産権関係(営業秘密を除く))
知的財産権については5業務が取り上げられています。比較的法務部門が主管する傾向があるものとしては、次の2業務が挙げられます。
・96 商標権の管理
…主管率36.7%、関与率20.5%
・100 知的財産権関係の争訟
…主管率32.6%、関与率35.5%
これら2業務については、20年以上前にほんの少し携わったことがありますが、あまり得意な領域ではありません。
一つ言えるとすれば、自分の権利を確保することと他者の権利を侵害しないことは、いずれも大変重要なことであってわからないからと放置してよいものではない、ということでしょうか。
次回の予告
私の体験とスキルを第12次報告の結果と照らしてご理解いただくという趣旨は、概ね今回までに達成できたように思います。
そこで、次回は第12次報告から離れて、それ以外にどのようなサポートをご提供できるかをご紹介したいと考えています。
もしかしたら、貴社のお悩みを解決する糸口が見えるかもしれません。次回もぜひお楽しみに。
※これまでの投稿については、以下ご参照ください。
1)第12次報告の概要とA判定業務(「法務部門が主管する企業が多い業務」―11種類の事務)
2)B判定業務(「多くの法務部門がA判定ほどではないが主管・関与することが多いと回答した業務」―7種類の事務)
3)C判定業務(「他に主管する部門があるが、法務部門が関与している事務」―18種類の事務)
4)X判定業務(「法務部門があまり主管・関与しない事務」―14種類の事務)
【引用】
米田憲市編、経営法友会法務部門実態調査検討委員会著 『会社法務部 [第12次] 実態調査の分析報告』 p.322~327、p.379~382(株式会社商事法務、2022年3月1日 初版第1刷 発行)
(代表 長谷川真哉)
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