企業法務―体験からのメッセージ⑥【社内規程 その1】

企業法務―体験からのメッセージ

はじめに 企業法務の体験から

私は、5業種6社で通算20年にわたり企業法務の仕事に携わりました。そのうち11年余りは部門長・組織長として責任のある立場で緊張感をもって業務に取り組んできました。

20年にわたる経験の中から、企業法務に携わる方のご参考になりそうなことを『企業法務―体験からのメッセージ』というタイトルで発信しています。

6回目の今回は、【社内規程】について述べたいと思います。

社内規程の性質

組織内の様々な事柄を統一的に運用し、恣意的な判断を排除しつつ、効果的・効率的な展開を図ることは、非常に重要なことです。そのために、どんな組織でも一定の内部ルールを設けています。会社においても同様です。

就業規則のように、法律上必須なものもあります。社内の意思決定のための指針として取締役会規則、会計上のルールを統一するための経理規程など、必須のもの、あるべきもの、あった方が便利なものなど、実は会社で設けている規程には、様々な性質があります。
詳述するときりがないので、この点はこの程度にしておきます。

社内規程についてのよくある懸念

ある程度以上の社歴と規模を有する会社であれば、「必要な規程がない」というケースはほとんどありません。
むしろ、「規程が多すぎて、わかりにくい」「この規程とあの規程の関係が不明瞭」「制定されたものの、長い間改訂されず放置されている規程がある」など、メンテナンス不足による混乱の方が多いように思われます。

規程のメンテナンスはできていますか

あなたの会社では、定期的に規程の棚卸をしていますか?かつて私が勤務した会社の例を二つ挙げましょう。

ある会社では、毎年度の後半にすべての規程を精査して次年度の新設・改廃の計画を立て、その実施をモニタリングしていました。
その結果、長期間放置されている規程はありませんでした。

別の会社では、昭和50年代に制定されたものの、現行の実務とは乖離した内容のまま残されている規程があるなど、メンテナンス不足に驚いたことがありました。

必要なはずの規程でありながら、なぜ、これほど長期間メンテナンスされず放置されていたか前任者に尋ねたところ、規程を改訂するための手続きが面倒ということでした。
例えば、改訂するときには、微細な内容であっても取締役会にかけねばならないルールだが、他の重要な案件も多い取締役会に提案することが憚られ、手つかずのまま改訂の時期を逸してしまった、というような説明でした。

どちらの会社も150~200件ほどの規程を有していましたが、随分異なる印象を受けたものです。

それぞれの規程の責任部門は

例に挙げた2社では、もう一つ決定的に異なる面がありました。

前者では、それぞれの規程の主管部門が明確で、規程上にも明記されていました。そのため、改廃の判断がスムーズにできたのです。組織上の変化があっても、毎年必ず規程を見直しているので、きちんとそれにも対応していました。

一方後者では、各規程の責任部門があいまいでした。制定時には明らかだったようですが、その後の組織の統廃合などの過程で、わからなくなってしまったのです。そのような事情を知ったことから、ある部門の規程を改訂したときに、「主管部門 ●●部」と明記したことがあります。

担当業務が変更になった後に、その規程に目を通す機会がありましたが、主管部門の表記がまるごと削られていることに気づきました。
そのときの担当者に尋ねたところ、「主管部門が表示されていると、なにか不都合が生じたときに責任を負わされる。責任の所在は状況に応じて様々なはずだから、それは納得しがたい」というあきれるような答えでした。

それがその会社のカラーだったのでしょうね。その会社のその後の顛末については、ここでは触れないでおきます。

規程類の階層は適切ですか

会社にもよりますが、「規程」、「細則」、「要領」のように、規程類をその重要度と性質に応じて階層分けしていることがよくあります。

この場合、例えば「規程」は実質的なルール、「細則」は規程を運用するときの手続き、「要領」は手続き上の詳細、いわばマニュアルだとします。そうであれば、「規程」があってこそ、「細則」や「要領」が設けられるはずです。

しかし、ある会社では「規程」がないのに「細則」とか「要領」だけがある、という状況が多数ありました。まれに、調査の結果、ある「細則」の根拠となる「規程」を発見したものの、名称からはそうとはわからず、主管部門も別でお互いに十分コミュニケーションを図れているとは言い難いという例もありました。

コンプライアンスと社内規程

「コンプライアンスの徹底は重要である」という点には、昨今どの会社であっても異論はないでしょう。

それでは、コンプライアンスが徹底されている状況とはどんなものでしょうか。
コンプライアンスをどう捉えるかは諸説あり、会社によって様々な解釈をしているのが現状ですが、少なくとも「法令遵守」という点は共通しているはずです。「法令」に限定せず、もっと広範に「人々の期待に応える」ところまでを打ち出す会社さえあります。

ここでポイントは、会社で働くときに意識するものは、法令そのものですか、ということです。

そうである場合も少なくはないと思いますが、業務が複雑になっている現在、法令(一つとは限らず、複数の法令による要求事項があることも珍しくない)の水準に適合するよう、自社の業務にあてはめた「社内規程」を設けて、社員は日常的にはその社内規程を遵守することで、結果的に法令にも適合するよう対処しているということが多いのではないでしょうか。

そうであれば、ますます社内規程は重要です。規程Aは古いまま、規程Bと規程Cの関連が不明、それぞれの規程の主管部門がわからないなどの状況はあってはなりません。

さらに、ある規程が浸透・活用される前提として、ユーザー部門が必要な規程に簡単にアクセスでき、その内容が最新でわかりやすいことこそ重要です。

ある会社では、「規程は重要なので、きちんとファイルして総務部のキャビネットの中」という冗談のような例もありました。
社員は個別の規程が制定、改訂されたときには知らされるものの、最新の規程集(つまり全体像)がどうなっているかを調べるためには、総務部のキャビネットまで足を運ばねばならないということです。正直に言って、とても驚きました・・

2回の表彰経験

私はこれまでの法務の経歴の中で、日常的に各社の規程に関与してきました。改善の余地がある会社では、規程体系の全面改訂など、わかりやすくアクセスしやすい社内規程体系の実現に取り組みました。

私は、これまで2つの会社で、いわゆる社長表彰を受けたことがあります。
そのうち1回は、規程集の整備とメンテナンス・公開方法の改善についての取組が対象となりました(退社時に表彰状を残してきたのが、今となっては悔やまれます)。

社内規程の適切な整備は、コンプライアンスの実現のための大切な環境整備の一環だと考えています。

まとめ

規程の整備は、直接利益を生む訳ではありません。したがって、いまひとつ優先順位が上がらないという事情があるかもしれません。
しかし、環境を整備することは欠かすことができない業務です。やり方を工夫すれば、手間を最小限に抑えたメンテナンスの仕方もあります。
その結果、「社内のルールや手順に簡単にアクセスできるようになり助かった」「複数の規程の関係がわかりやすくなり、日常業務の役に立つようになった」「規程の改訂がこんなにスムーズにいくとは。いままでは何だったのだろう」と概ね好評だったようです。

もし、社内規程のメンテナンスや活用にお悩みであれば、私の様々な体験が貴社のお仕事に役立てるかもしれません。
何かヒントやサポートが必要であれば、ぜひ、お気軽にお問合せください。
初回相談は無料です。

次回予告

今回は、コンプライアンスを徹底するために必要な環境の一つとして、【社内規程】についての体験をお知らせしました。次回も、引き続き「社内規程」についての記事を掲載する予定です。

今回あまり具体的に触れなかった、規程へのアクセスの改善、周知と浸透のための工夫を、さらに次の号では、そのような視点での階層の整備、定期的な改廃を少しでも容易にするためのテキスト管理、バージョン管理の仕方の例などをお知らせしたいと考えています。

引き続きお楽しみいただけますと幸いです。

※前回までの投稿は、以下をご参照ください。

企業法務―体験からのメッセージ①【期待】
企業法務―体験からのメッセージ②【人】
企業法務―体験からのメッセージ③【採用】
企業法務―体験からのメッセージ④【転属】
企業法務―体験からのメッセージ⑤【コンプライアンス組織】

(代表 長谷川真哉)

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